
第8回
製品がパスポートを持って行動し始めた
「エコデザイン」
2024年7月、欧州委員会はEU域内で流通する製品の環境要件を定めた「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)を制定。「域内で流通する製品」の規則なので日本からの輸出製品も対象だ。
まず従来のEUのエコデザインはエネルギー関連に限定していたのだが、ESPRではEU市場に流通する部品や中間製品を含むほぼ全ての製品に適用が拡大される。(食品、飼料、医薬品、動植物は適用除外、他の法令で規制されている自動車も非適用)
またエコデザインの要件は、製品の耐久性、再利用可能性、アップグレード可能性、修理可能性、循環性を阻害する物質の存在に関する規則、エネルギー効率と資源効率、リサイクル含有量、再製造とリサイクルなど具体的に規定されている。
かつてのマーケティングでは「新製品を如何に売るか」が最大の課題だったが、この規則では「修理」「再利用」「循環」が規定されており日本の「もったいない」精神が含まれている点が注目である。
「製品のパスポート」が国境を超える
エコデザイン規則の最大の特徴は「デジタル製品パスポート」を使い、消費者に情報提供せねばならない点だ。製品に貼付されたQRコードから当該製品のエコデザイン要件にアクセス可能となる訳だ。我々の日常でも、有機栽培の野菜売場などでキャベツやトマトにスマホをかざすと農家さんが動画に登場してくれる、そんなイメージだ。
いずれ顧客はQRコードから「修理可能性100%」「エネルギー効率30%向上」「再生プラスチック使用率70%」などのエコデザイン情報を取り込み、消費行動を支える時代が間もなく来るだろう。
世界で二番目に環境に悪いアパレル産業
ところで世界で2番目に環境に悪い産業が何か知っているだろうか?国連貿易開発会議が繊維産業が世界で第2位 の汚染産業だと指摘している。何がそんなに悪いのか。
- 染色段階の水使用量が多く1tの生地を染色するのに1〜25万ℓもの水を使用
- 年間73万tの使用済み衣類のうち63%がリサイクルされずに廃棄処分(焼却処分が多い)
- 繊維産業の温室効果ガス排出量は12億tで航空業界と海運業界を足した量よりも多い
しかしLCAを使うとそうとも言えないことが分かる。LCAとは「ライフサイクルアセスメント」のこと、原料採取から調達、製造、流通、使用、最終廃棄にいたるまでの製品の全過程(ライフサイクル)における環境負荷を総合評価する手法だ。EV車を例にとると、走行時はCO2を出さないが、製造時はガソリン車の倍の負荷がかかり、充電する電力は化石燃料由来…となるとライフサイクル又は循環視点で見た時、エコカーが本当にエコか一概には言えなくなる。
アパレルと聞くと汚染のイメージは薄いが、「ライフサイクル視点」で見ると、実態は環境負荷型のビジネスモデルだったのだ。
そして「エコデザイン規則」は、この繊維産業に追い打ちを掛ける。売れ残りの繊維製品の廃棄を禁止しているのだ。新製品を出し続けることで利益を拡大してきた20世紀型マーケティングの終焉だ。大企業では2026年7月から、中規模企業も2030年7月から適用される。
これまでのビジネスの「常識」(例:売れ残りは廃棄)が、サステナビリティとしいう新しい「物差し」で評価することで「非常識」にカテゴライズされる。
このようなサステナビリティ時代の常識の逆転、何もアパレルだけの話ではないだろう。