
第5回
身近に迫る新たなリスク ~ PFAS問題 ~
「その水、飲めませんよ!」
市役所から突然「井戸水を飲まないでください」と言われことあるだろうか?2024年12月私が住むさいたま市浦和区で実際にあった話だ。同区上木崎の湧水が、国の暫定指針値(50ng/L)の360倍もの高濃度でPFAS(通称:ピーファス)に汚染されているという。
住宅地のど真ん中で、井戸水を飲む地域でもないため住民は冷静に受け止めている。水道局のHPによれば「水道水に影響はなく、安心して飲めます」とのことだ。しかし「敵の正体」が見えないうちは、さすがに蛇口を回す手が止まる。
「PFAS」とは数千種を超える有機フッ素化合物の総称、このうちPFOS(通称ピーフォス:ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(同ピーフォア:ペルフルオロオクタン酸)は、「熱に強く」「水や油をはじく」等の機能が優れており幅広い分野で重宝されてきた。
身近にある「永遠の化学物質」
具体的には、PFOSは、半導体用反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤、泡消火薬剤などに、PFOAは、フッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤などに主に使われてきた。半面PFASは自然界でほとんど分解されず、人体に取り込まれれば体内に長く残るため「永遠の化学物質」とも言われ、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため国際条約で製造・使用・輸入が禁止されている。
そこでの一番の懸念は、飲み水だ。PFASを含んだ水が水道水を通じて、体の中に取り込まれると健康への悪影響が懸念されるため、さいたま市が注意喚起を行ったのだ。
さてPFASはどこから来たのか?上木崎は私の身近なランニングコースでもあるが、工場らしき建物はなく、住宅密集地、保育園が数件あるような閑静なエリアだ。今のところ市では「原因不明」としている。
原因は「排水処理の活性炭」の皮肉
一方、水道水汚染の原因を突き止めた自治体がある。岡山県吉備中央町だ。県が水道水のPFAS汚染の調査を行った。汚染状況に沿って川を遡っていくと、山中の資材置場に野積みされている数百のフレコンバックに行き着いた。中身は排水処理で使用された活性炭。この使用済み活性炭に付着したPFASが染み出し、長い時間を掛けて沢の水を汚染していったらしい。
公共水域の水質を守るため使用された活性炭、それが汚染源になるとは何とも皮肉な話だ。このように原因究明できているのはレアケースのようだ。
化学物質は一度環境中に放出されると健康被害との因果関係の特定が困難であり何年も費やされる可能性がある。よって最悪のケースを想定した「No Regret Policy」(後悔しない政策:予防原則)で臨む必要がある。実は既に多くの日本企業が、影響の懸念が高いPFOS、PFOAだけでなくPFAS全般の使用を2025年中に取りやめると表明しているのはそのためだ。
- 外食やコンビニ:PFASを除去した包装素材等への切り替え
- 製紙会社:PFASを使わない耐油紙を食品向け包装紙の開発
- 繊維会社:PFASの代わりに表面に微細な凹凸構造を持たせることで水をはじく素材の開発
- 化学会社:PFASを含まないスマートフォン向けの樹脂素材の開発
さてあなたの会社のどこかでPFASが使われていませんか、後悔せぬよう早めに確認を!