
第4回
多様性の失敗は「心の準備不足」~ インクルージョンの重要性 ~
【人口減少】
日本総合研究所によると、「2024年の日本人の出生数は初めて70万人を割る見通し」とのことだ。人口維持には2.07程度の出生率を保つ必要があるとされるが、特殊出生率も1.15を割り込む。出生数は初めて80万人を割った22年からわずか2年で70万人割れとなる。
【労働人口減少】
総務省「労働力調査」によると、生産年齢人口(15~64歳)の減少が進む中で、労働力を女性・高齢者・外国人労働者が補う形で全体の就業者数が維持されてきたものの、足下ではそれも頭打ちとなり、多くの企業で人材の供給制約に直面している。
【人手が不足していない企業の理由】
帝国データバンクのアンケート(調査期間:2023年5月12日~16日)によれば、人手が不足していないと回答した中小企業319社にその理由を聞いたところ「賃金や賞与の引き上げ」がトップであるものの2位以下が「働きやすい職場環境」(35.1%)「シニアの再雇用」(31.7%)「福利厚生の充実」(25.7%)「働き方の多様化」(19.1 %)と言う結果だった。
藁をもすがるダイバーシティ
このように日本で少子高齢化が高速で進行し企業の採用にも悪影響を与え始めてきた。人材難に陥っている企業においては「大胆な働き方改革」「女性活躍企業」「職場環境の大幅な改善」など社内施策の背景は、戦略的と言うよりも、むしろ労働力確保における「背に腹は代えられぬ苦肉の策」というのが実態だ。
極端な実例だが、これまで「外国人も可、ただし日本語が話せること」という採用の募集条件の会社が、今や「日本語不問」に変わっているという笑えない現実が日本各地にある。そして実際「ダイバーシティ」などの施策を実行した企業からは、以下のような相談が寄せられている。
- 女性社員昇進の特別枠を設けたが、男性から「逆差別」との声が上がり女性社員が職場で孤立。
- 外国人労働者を採用しているが、日本人社員と言語の壁や文化的な誤解から仕事の進め方で双方に不満がたまり、職場が険悪に。
- 再雇用の高齢社員が若手との間に価値観や仕事の進め方の違いでたびたび衝突が発生。
インクルージョン(包摂性)に軸足が移る
「ダイバーシティ」の実現は簡単ではないという事実。しかし詳しく訊くと、共通するのは「多様化を受け入れる社内の心の準備不足」と言うことが分かった。「社内の心の準備」、これを「包摂性」と言う。DE&I(多様性、公平性、包摂性)の「I」、SDGsに出てくる「インクルージョン(Inclusion)」だ。
「包摂性」の定義は「女性、外国人、LGBT、障がいのある人など多様な人々が互いに個性を認め合い一体となって働く状態」のこと。かつての日本企業では「同僚を認め合う企業文化」は努力しなくてもある程度実現していた。採用方法が一律だったからだ。
2024年の企業のHPで「インクルージョン」が目立ってきた事実からも、多様性の実現には包摂性が不可欠という認識が高まっている。そこで「無意識の偏見をなくす研修」「褒めあう施策導入」「今年社内で言われて嬉しかった事例集」など既に具体的な施策が始まっている。しかし人事部の一律の施策だけでは限界がある。やはり職場の人間関係の話なのだ。よってこれからは部門リーダーの力量が問われてくる。