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第2回
今日から「ダイバーシティ」止めますか?

株式会社オフィスグラビティー/JMA主任講師中川 優

DE&Iは「多様性、公平性、包摂性」

ある日、私は研修に先立ち受講生に何と切り出そうか悩んでいた。今日は「ダイバーシティ研修」の日、間もなく開始だ。悩みと言うのは、トランプ大統領が「多様性は止める」「性別は男性と女性だけ」と宣言したことによる。米国トヨタ、日産の現地法人も追随するのだそうだ。2.0にバージョンアップしたトランプは言葉通り新しい方針を指示、大統領令にサインした。本日の研修参加者がアンチの話題を聞いて「研修をポジティブに受け取れない」となったらどうしよう、それが今朝の悩みだった。

ただ予測はしていた。年明け早々「マクドナルドも多様性目標廃止 世界15万人社員に影響も」(日経新聞2025年1月8日)と報じられていた。同社は、これまで米国本社や直営店では「管理職に占める女性比率を45%」、「人種や性的なマイノリティーの比率を30%」に高め「賃金格差撤廃」することを目標としてきた。しかしCEOは突如「多様性目標」を廃止するとし、取引先に要請していたDE&I(多様性、公平性、包摂性の頭文字)の推進の誓約を取りやめると発表した。

アンチDEIの法的根拠

米国の民主党はリベラルで、共和党は保守。リベラルは個人の権利を重視、保守は伝統を重んじる。(日米で意味が多少異なる)ステレオタイプだが今回の背景をなぞるにはこの程度の区分でいいだろう。バイデン(民主党)からトランプ(共和党)への政権交代は、米国の企業の価値観も大いに揺さぶっている。

しかしこの「反DE&I」にも根拠があった。2023年6月29日、米連邦最高裁はハーバード大学などが採用する人種を考慮した入学選考(アファーマティブアクション:affirmative action)について、法の下の平等を定めた憲法修正第14条に「違反している」と判断した。人種的少数派に対する格差を積極的に是正する措置を「アファーマティブアクション」と呼ぶ、一方多数派の言い分は「人種的マイノリティー優遇は逆差別」だと。そう考えると、反DEIも単に政党間の争いの類ではないようだ。

日本の入試においても似たような話がある。女性などを医科大学の入試で一律に不利に扱う不正に対して集団訴訟があり、2022年9月「性別による差別を禁じた教育基本法と憲法に反しする」として、大学側に賠償を命じる判決が出された。

しかし似ているようで異なる点は、日本の場合、女性は医師となった後に「結婚・出産に伴う離職が多い」「希望する診療科に偏りがある」ことが理由で男性を多く採用しようという風潮があるといわれている。日本では少なくとも「人種」ではなく「ジェンダー」の問題だ。

日本企業に求められる「価値を生む体質」

ダイバーシティ(多様性)とは「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み価値創造につなげる組織のあり方」であるとされている。多様性は手段ではあっても目的ではない。日本企業にとって価値を生む体質に変革する特効薬がダイバーシティなのだ。

OECDが指摘する通り日本は1990年~2020年の30年間経済成長はほぼゼロ。報道でも言われている通り個人の収入が2~3倍も違っている。もちろん様々な要因はあるだろうが、日本企業としえては、30年を取り返す意味でも「イノベーションを生み」、「価値創造」しなければならない。そうでなければ、少し大げさかもしれないが「国家の未来の危機」とさえ思える。そこがダイバーシティを推進する日本と米国と本質的な違いである。という話で締めくくって一日の講義は無地終了した。

日本における「多様性」の系譜
日本における「多様性」の系譜

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