
第1回
「サステナビリティ」成功の秘訣
サステナビリティが上手くいかない2つの理由
サステナビリティの導入方法は、2019年以降、SDGsの指南書である「SDGコンパス」が広く引用されてきた。その手順はステップ
① SDGsを理解する➤
② 通選課題(マテリアリティとも言う)を決定する➤
③ 目標を設定する(実際はKPI:重要業績評価指標も設定)➤
④ 経営へ統合する➤
⑤ 報告とコミュニケーションを行うというもの。最近では、「未来にありたい姿」を明確にすることの重要性が認識されている。
ところが実際やってみるとこの5ステップの実践は意外に難しい。特に課題が2点あると言われている。
① 「重要課題」が他社と類似の戦略になりがち
代表的なサステナビリティ課題やSDGsを起点に「未来にありたい姿」や「重要課題」を検討するため普遍的ではあるが、どこも似たり寄ったりとなりがち。これでは戦略に使えない。でも「2030年みんな同じサステナブルな未来を目指すのだから、同じでいいのでは?」と言う声もあるが、本業を通じて実現できるサステブルな未来はそれぞれ異なる。例えば、自動車メーカーの創る未来と、食品メーカーが実現できる未来は同じサステナビリティでも質的に異なるものだ。
② 地球規模のテーマからのバックキャストでは現場との距離感が否めない
この「現場との距離感」が原因で、従業員が「自分ゴト化」できにくく、従業員の心に刺さる「自社の未来の姿」が見えない。では何故そこが大事か?それは今やサステナビリティは「(政策を)掲げるもの」から「達成するもの」に変わったからだ。ESG投資がその推進役だ。従業員の実践がなければ達成はない。ボトムアップの要素も必要なのだ。「社内浸透」の重要さは、正にここからきている。
自社の小さなサステナビリティ事例を収集する
どうすれば実現できるのか。まず導入手順の最初のステップで、自社で既に実現している「身近で小さなサステナビリティ事例」を徹底的に集める。以下のような視点で探すと小さな事例は必ず存在する。
- 「将来の我が社にいいと思える活動」の中で「社会や環境にもプラス」の活動から収集する。
- 社会や環境からではなく「会社にいいこと」から考えること。(例:改善活動、効率化、顧客満足)
- 「自社らしさ」に注目し、利益だけではなく、社会や環境への貢献を生み出した事例を収集する。
その事例を精査して、将来の新商品や事業開発、現状の事業プロセスの改革など「価値創造」に貢献するような「小さな仮説」を描いてみる。これだとリアリティーがあり、全従業員が参画可能、そして何より生み出された「未来にありたい企業像」を自分が策定したという充実感が醸し出される。
「小さな仮説」の検討は訓練が必要なので、最初は有志対象で「2030年の新規開発ワークショップ」を行い「未来づくり」の勘を養う、その手の研修は一部の企業で既に行われている。
イメージを持ってもらうために植物油メーカーの事例で考えてみたい。自社工場内で発生する廃油の一部リサイクルが外部から評価されたとする。次に①そのノウハウを使い一般家庭から排出される廃油をリサイクルできないか?(持続可能な資源利用)、②その廃油は飛行機の燃料に使用できないか?(気候変動の緩和)、③その再生油を循環できないか?(循環経済の貢献)、④持続可能なパーム油に変更できないか?(児童労働の撲滅)…など、小さなビジネススモデルを昇華しながら足元から「価値創造」を考える。このボトムアップ発想こそ日本企業が一番の強みを発揮できる方法ではないだろうか?
